東京地方裁判所 昭和57年(ワ)7477号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
当事者の主張は、次のとおり。
「一 請求の原因
1 原告は、昭和四二年に「共済の宿と旅」と題する共済施設の案内書を作成し、昭和四三年に右題名を「全共済施設総覧」と改めた。
右「全共済施設総覧」(以下、「本件書籍」という。)は、全国の共済施設の案内を目的とする書籍であり、原告が各共済組合本部、共済組合連合会及び各宿泊施設から取り寄せた資料や、自から各施設を探訪して入手した資料を適宜取捨選択整理し、これらに基づいて各施設毎の案内文を作成し、利用者の便宜を考慮して、見出し、配列に工夫をこらして作成したものであつて、原告が編集をしたことによりその著作権を取得した編集著作物である。
2(一) 被告は、昭和五六年、原告が発行した同年度版の本件書籍を故意に複製し、同年二月二〇日から同月末までの間に、右複製本を四万冊販売した。
(二) 被告は、昭和五七年、原告が発行した昭和五六年度版の本件書籍を故意に複製し、その表紙を取り替えて昭和五七年度版「全共済施設総覧」とした別紙目録記載の書籍を発行し、昭和五七年三月一日から同年六月一七日ごろまでに少くとも二万冊を販売し、現に販売している。
3(一) 被告は、右2(一)の行為により少くとも一二〇〇万円、同(二)の行為により少くとも六〇〇万円、合計一八〇〇万円の利益を得、これにより原告は同額の損害を被つた。
(二) 原告は、被告が本件書籍と同一題名の書籍を発行したことにより、従前からの取引先に対する信用を著しく失つた。右信用の失墜を金銭に評価すると四〇万円が相当である。
4 よつて、原告は、被告に対し、別紙目録記載の書籍の発行、販売、頒布の差止め並びに損害金合計一八四〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五七年六月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否<省略>
三 抗弁
被告は、原告との間で、昭和五四年五月、被告が原告から本件書籍の著作権及び出版に関する一切の権限を譲り受ける旨の契約をした。」
【判旨】
一請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。
二そこで抗弁について判断する。
<証拠>によれば、次の事実が認められ、これを覆えすに足る証拠はない。
(1) 原告が代表取締役であり本件書籍の販売を業務とする訴外株式会社共済法規研究会出版部(以下、「訴外会社」という。)は、昭和五四年一月、約一億円の負債を残して倒産した。原告も個人として多額の保証債務等を負担していたので、共済法規研究会出版部代表者の名義で行つていた本件書籍の編集発行を断念せざるを得なくなり、訴外会社の負債整理を弁護士萩原四郎に依頼した。右依頼に基づいて、同弁護士は、いわゆる町の金融業者を主体とする債権者らと交渉しつつ事実上の整理を進めたが、この過程で、右負債を弁済するためには、本件書籍の発行を継続し、その利益で長期にわたり弁済を継続していくことが必要と判断され、このため、資金を提供してくれる適当な第三者に右事業を引受けさせる方針が原告及び債権者らの同意の下に決められた。
(2) 右方針に基づいて、右事業は清水敬友に委ねられることとなり、被告代表取締役清水敬友、訴外会社代表取締役原告、本件書籍の編集発行者としての原告の三者間で、昭和五四年五月ころ、訴外会社は法人組織を解散すること、被告が訴外会社の在庫商品什器備品類を買受け、出版事業を引き続いて行うこと、右事業を行うにつき訴外会社及び原告は異議を述べないこと、原告は本件書籍を含む官公庁職員共済組合関係の関連図書の著作権及び出版に関する一切の権限を被告に譲渡すること、被告は訴外会社と六か月毎に協議のうえ、被告の利益金中より訴外会社の債務弁済資金を提供し、訴外会社はこれを債権者に分配することを主たる内容とする合意が成立し、右合意の内容を記載した同年五月一日付協定書及び同年五月二三日付約定書が作成された。
(3) 被告は、右合意の趣旨に従い、同年五月末ころ訴外会社から譲受けた在庫商品等の代金二三〇万円を支払い、原告が連帯保証していた訴外会社の債務四三六万円余を債権者に弁済する等し、また、原告の生活を保障するため編集担当の従業員として原告を雇い入れ、以後、毎年「全共済施設総覧」の発行を継続している。
以上の事実によれば、本件書籍の著作権が原告から被告に譲渡されたことが認められ、これによつて原告は右著作権を喪失したことが明らかである。
(牧野利秋 飯村敏明 高林龍)